
パワーインスツルメントによる鼻内内視鏡下副鼻腔手術
耳鼻咽喉科部長 今中政支
私は頭頸部外科が専門ですので、喉頭癌や舌癌あるいは甲状腺癌といった頭頸部癌の手術をする機会が多いのですが、当院耳鼻咽喉科全体でいえば、慢性副鼻腔炎(いわいる蓄のう症)の手術件数が最も多いのです。慢性扁桃炎(口蓋扁桃摘出術)や声帯ポリープの手術件数の倍以上で、年間にして100例ほどになります。蓄膿と言うと、なかなか治らず、耳鼻科に長年通院して鼻を洗浄するイメージがあるようです。本年度の済生会学会で発表を予定しているのですが、当科では慢性副鼻腔炎を臨床病期分類し、保存的治療で臨むべきか、早期に手術を計画すべきか、あらかじめ判断するようにしています。簡潔に述べますと、鼻茸(鼻内ポリープ)充満例では手術は避けられません。さらに中鼻道の閉塞の程度によって予測できないかを検討中です。開業医から保存的治療に抵抗するために手術目的で紹介された患者様を除けば、3ヵ月のマクロライド内服療法をまず試みています。これにより手術をしないと治らない人としなくても治る人のふるいわけがさらに確実なものとなるのです。さていよいよ手術となりますと皆様が恐れておられるのは、噂に聞くあの術式ではないでしょうか。歯ぐきの上を切開して上顎洞の前壁骨をノミと槌を用いてコンコン割ってアプローチし、根こそぎ粘膜を剥ぎ取る上顎洞根本術と言われる術式です。しかも術後は殴られたように顔が腫れるという有り様でした。御心配はいりません。当科では慢性副鼻腔炎でこの旧式の術式を選択することはありません。内視鏡を用いてテレビ画面で観察しながら全ての副鼻腔の清掃を鼻内からのみ行う鼻内視鏡下手術(ESS)で行っています。術後性頬部嚢胞でも歯性上顎洞炎でも、このESSが第一選択です。コンコン割ったりしませんし、試合に負けたボクサーのように顔を腫れさせることもなくなりました。そしてこの数年間、さらなる進歩がありました。シェーバーあるいはマイクロデブリッターと呼ばれるパワーインスツルメントなる手術支援機器の登場です。鼻内視鏡下手術の欠点は鉗子でちまちま削りとるために出血すること。そのために時間がかかること。そして粘膜や篩骨洞内の蜂巣壁骨を引きちぎる操作によって疼痛を与えてしまうことでした。シェーバーを用いますと組織除去と出血の吸引が同時に行えますので、出血していても良好な手術視野が得られ、迅速な病的粘膜の切除が可能となります。手術時間は大幅に短縮されました。手術時間の短縮は出血量の減少にも貢献しました。そしてなによりもの朗報はこのシェーバーでの切除が従来の鉗子によるものに比べて痛くないという事実でした。電気かみそりを用いたひげそりを連想して頂くと解り良いかもしれません。吸引したものしか切除しませんので従来の鉗子による切除に比べて副損傷の危険性が減りました。そのうえなだらかに削られた創面は治癒も早いことがわかりました。この機器が当科に導入されたのは昨年の冬からです。私のおねだりを齋藤総長が快諾してくださり、導入がようやく実現しました。これは他施設に遅れをとったと言わざるを得ない状況でした。

ところがあわてるなんとかはもらいが少ないと申しますように当科が購入したXPSドリルシステムは他施設が手にしていた先行の機種に比べて優れた物でした。家庭用ビデオカメラ等を買い急ぐと失敗するのと同じです。XPSの刃先は写真1のようにギザギザになっています。これは吸引および洗浄装置と連動しており、目的とする病的粘膜を筒内に引っ張り込んで、刃がクルクル回って次々と切除し、吸引除去していく仕組みになっています。XPSは器具内を生食が環流しており除去した組織が詰まることがないよう改良されている点が画期的でした。またブレード(刃先)も小児に対応した径の細いものがあり、シャフトもストレートに加えて40度、60度といった角度のついたものも用意されているなど、アイテムが豊富で、鼻内から様々な副鼻腔の隅々までアプローチしやすくなっています。実例を挙げてみたいと思います。同じ鼻茸でも喘息性の鼻茸は中鼻甲介など目印となる構造物がわからないほど鼻内いっぱいに充満していることが多く、おまけに大変出血し易く、その切除は困難を極め、まさに悩みの種でした。

写真2は喘息を有する患者様の鼻茸をXPSによって易々と切除しているところです。通常30分かかっていた作業がわずか数分でできてしまいます。開業医を対象とした講演会でこの場面をビデオにてお見せしたところ会場にはどよめきが起こりました。迅速かつ安全で、疼痛も少なく、侵襲も少ない。そのため術後の傷の治りも早く、入院期間も短縮される。そんないいことずくめのパワーインスツルメントを用いて手術ができる我々をうらやむ声も聞かれました。鼻内内視鏡下副鼻腔手術も日々進歩しているのです。この機器の導入により鼻の手術の入院期間が3日ほど短縮されました。耳鼻咽喉科全体の平均在院日数が10日を切る月も多くなりました(先月は7.4日!)。
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