大動脈弁狭窄症とは?
大動脈弁狭窄症とは、⼼臓弁膜症のひとつで、石灰化等により心臓と大動脈を隔てる弁が開きにくくなることで、全身に血液を送り出しにくくなり、血液がうっ滞してしまう病気のことです。

- 提供:エドワーズ・ライフサイエンス株式会社
典型的な症状
としのせいだと思っていませんか?
⼤動脈弁狭窄症は高齢の患者さんで多くみられ、また長期間をかけて徐々に進行するために、加齢に伴う症状と誤解されることが多く、未治療のまま病状が進行して、重症になって初めて気づかれる患者さんが多いとされています。下記のような症状がみられる場合は、一度当院もしくはお近くのクリニックを受診することをご検討ください。
- 息切れ
- 胸の苦しさ、胸痛
- 疲れやすい
- めまい、立ちくらみ、失神
- 活動性の減少
- 動悸
(下記はイメージ)
-
息切れ -
ドキドキ(動悸) -
胸の痛み -
気を失う
ほっとくとどうなるの?
進行速度には個人差はありますが、必ず加齢とともに進行します。また、長く無症状ですが、いったん症状が出ると予後不良であることが知られており、一般的な生命予後は、狭心症(胸が痛くなること)が発現すると5年、失神(気を失うこと)が発現すると3年、心不全(息切れなど)が発現すると2年といわれており、突然死の危険性も伴います。また、たとえ症状がなかったとしても、重症になった時点で治療介入を行った方が生命予後が改善するいうと報告もあります。

- Lester SJ、 Heilbron B、 Dodek A、 Gin K、 Jue J. The Natural History And Rate Of Progression Of Aortic Stenosis. CHEST. 1998;113(4):1109-1114.より一部改訂
大動脈弁狭窄症の生命予後
手術を行わずに経過を見た場合、一般的な癌の生存率よりも劣ることが知られています。
重症大動脈弁狭窄症の5年生存率
(主な癌の5年相対生存率(2009-2011年)との比較)

- がん情報サービス がん腫別統計情報(2024年4月閲覧)およびVaradarajan P、 et al. Eur J Cardiothorac Surg. 2006; 30(5): 722-7.より一部改定
治療方法は?
以下の3つの治療方法があります。
- 薬物療法
- 薬で症状を緩和し、心臓にかかる負担を取り除きます。ただし、⼤動脈弁狭窄症は自然治癒する病気ではありません。保存的治療では、弁そのものを治すわけではありませんので、病状は徐々に進行していきます。
- カテーテル治療(TAVI)
- 「TAVI(タビ)」とはTranscatheter Aortic Valve Implantationの略で、経カテーテル的大動脈弁植え込み術のことです。開胸することなく、また心臓を止めることなく、カテーテルを使用して患者さんの心臓に人工弁を留置する方法です。2002年にヨーロッパで始まり、日本では2013年に保険適用の対象となりました。
低侵襲で、人工心肺を使用しなくて済むことから、患者さんの体への負担が少なく、入院期間が短いことが特徴です。高齢で体力が低下している患者さんや開胸での手術に対してリスクを有する患者さんでも実施可能な治療法です。そのような患者さんにおいては外科的手術よりもTAVIの方が生命予後を改善させるという報告があります。 - 外科的治療
- 人工心肺装置を用いて、心臓を止めた上で開心して弁を置換します。TAVIと比べて侵襲度が高いことから入院期間は長くなりますが、長年の治療経験から長期成績が確立された治療法です。主に若年でリスクの低い患者さんが対象となります。
日本循環器病学会の弁膜症治療のガイドラインに則り、当院では年齢のおおまかな目安として、80歳以上はTAVI、75歳未満は外科的治療を検討しますが、個々の患者さんにおいて、それぞれの治療法のリスクや患者さんの希望に応じて、ハートチームカンファレンスでディスカッションした上で治療法を決定します。

- 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン:2020年改訂版 弁膜症治療のガイドラインを参考に作図
治療方法の比較
薬物療法 | カテーテル治療(TAVI) | 外科的治療 | |
---|---|---|---|
生命予後の改善 | なし | あり | あり |
侵襲度 | 低い | 低い | 高い |
人工心肺 (心臓を止める) |
ー | なし | あり |
手術時間 | ー | 約1〜2時間 | 約5〜6時間 |
入院期間 | ー | 約1週間 | 2週間以上 |
手術による ADLの低下 |
ー | 少ない | 大きい |
対象年齢 | 全年齢 (多くは手術困難例) |
80歳以上 (75〜80歳は患者さんに応じて) |
80歳以下 (75〜80歳は患者さんに応じて) |
過去の エビデンス |
ー | 少ない | 多い |
TAVIとは?
TAVIは、重症大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療で、日本では2013年10月より公的医療保険で手術可能となった比較的新しい治療法になります。開胸することなく、また心臓を止めることなく、カテーテルを使用して患者さんの心臓に人工弁を留置する方法です。傷口が小さく、人工心肺を使用しなくて済むことから、体への負担が少なく入院期間も短いのが特徴です。TAVIは、麻酔をかけて行われますので痛みはほとんど感じません。
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TAVIの効果
当初は外科的治療が不可能な患者さん、もしくは外科的手術のリスクが高い患者さんがTAVIの対象でしたが、最近になり手術リスクが低い患者さんにおいても外科的手術に比べて成績が劣らないことが報告されるようになりました。
わが国では2013年よりTAVIが保険適用となりましたが、30日死亡率は2%以下と、海外と比べても良好な手術成績を挙げています。

SAPIEN 3 Valve
販売名:エドワーズ サピエン3(エドワーズよりご提供)
TAVIのアクセス
ほとんどの症例では、太ももの付け根の動脈(総大腿動脈)からカテーテルを挿入する「経大腿アプローチ」で行われますが、事前に検査を行い、患者さんの状態に適したアプローチ方法を選択します。
末梢血管よりカテーテルを挿入することで人工弁を心臓まで運びます。太ももの付け根の動脈(総大腿動脈)からカテーテルを挿入する「経大腿アプローチ」は体に最も負担が少ない方法とされており、第一選択の治療法となります。血管の状態によって経大腿アプローチが適さない場合は、肋骨の間を切り心臓の下端(心尖部)からカテーテルを通す「経心尖アプローチ」や上行大動脈から挿入する「経大動脈アプローチ」、鎖骨下動脈から挿入する「経鎖骨下動脈アプローチ」を検討します。

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TAVIのメリット
- 体への負担が少ない
- 開胸することなく、また心臓を止めることなく、カテーテルを使って人工弁を患者さんの心臓に留置しますので、患者さんの体への負担が少ないことが特徴です。TAVIの導入に伴い、ご高齢もしくは併存疾患からこれまで開胸手術が困難であった患者さんにおいても手術が可能となりました
- 早期回復
- 問題なく手術が終われば、手術翌日より歩行が可能となります。その為、足や腰の状態が悪く、長期間の安静で歩行困難となってしまうような患者さんにおいても、歩行能力を低下させることなく治療を行うことができるようになりました。
術後の経過が良好であれば術後1週間程度での退院が可能です。また、退院後はすぐさま元の生活に戻る事が出来ます。大動脈弁機能は大幅に改善していますから、治療前には出来なかった色々な活動が可能になります。 - 死亡・脳梗塞リスクの軽減
- 高齢の患者さんにも施行することができ、死亡・脳梗塞リスクが軽減し、生命予後の改善が期待できます。
当院におけるTAVI施行までの流れ
初診外来受診
初診時には、かかりつけ医の「紹介状」をご持参ください。重症大動脈弁狭窄症のスクリーニング検査を行った上で、治療方法について説明させていただきます。
検査入院
治療適応と判断されれば、TAVI 実施に必要な精密検査を行います。患者さんの状態や希望によっては外来での検査のみで行うこともあります。
ハートチーム
カンファレンス
各種検査所見を踏まえて個々の患者さんにおける最適な治療方法について話し合います。
TAVI 実施
治療の2日前に入院。術後はICUに入室しますが、翌日には食事・リハビリテーションを開始します。
退院まで
合併症の発症などないことを確認し、状態が安定していれば1週間程度で退院となります。